宮崎県の綾町は、ニホンカモシカ生息の南限といわれています。 しかし、その姿を写真にとらえた例はないと聞いていました。 平成15年10月6日午前6時15分頃、雲がかかった山の撮影をしようとホテルを早めに出発した私とカメラマンが向かった場所は、綾町のつり橋を過ぎ、 5分ほど走ったカーブ地点。そこだけ視界が開けていて、撮影にはちょうどいい場所でした。 対岸の山とは300m以上はあったでしょうか、木がそこだけ抉り取られていて岩が露出している急斜面に、何か動くものを見つけたんです。同行のカメラマンによると肉眼でよくわかるね・・・というくらいのわずかな動きでした。 しかし、それがニホンカモシカかどうかまではわかりません。幸運だったのは、その日に限って「茅野さんの取材は何が起きるかわからないから・・・」 という、よくわからない理由で取材の相棒ともいえるカメラマンの菅さんがなんと600mmの望遠レンズを持参していたのです。「菅さん、撮ってください!連写で!はやく!」
通常、600mmの望遠を手持ちで撮ることはプロのカメラマンならしませんし、ましてや明け方で光量が足りない状態。フィルム感度を上げてもシャッタースピードはかせげません。 でも、そんなことはお構いなし。早くカメラに収めくれと願うばかりでした。 カメラを借りてレンズをのぞくと、思ったとおり、その姿をはっきりと確認できました。 これは大スクープ!すぐに新聞社を訪ね、数日後の掲載となりました。 綾町のつり橋付近は、照葉樹林と呼ばれる常緑広葉樹が広がる世界的にも貴重な原生林です。私たちの前に姿を見せたニホンカモシカは、 このすばらしい自然生態系を未来に伝えのこしてほしいというメッセージを投げかけたのだろうと、勝手に想像しています。