熊本~八代~いぐさ


                          撮影:スガトシカズ

いつか来た道。熊本県八代市の初夏の風物詩。


この時期、八代は一面の緑。500年を超える歴史と伝統を誇る「いぐさ」の緑が輝く。
6月に入るとぼちぼち収穫が始まる。押しも押されもせぬ日本一のいぐさの産地である。
ところが最近は石油繊維でつくる「化学畳」や輸入品に押されて、八代のいぐさは
苦戦を強いられているという。

いぐさの生命線は、その長さと太さにある。
八代では、畳本来の特性である湿度の自然調整機能や弾力性をもたせるために、
いぐさの芯がしっかり成長するのを待ってから刈り取る。収穫したいぐさは泥(染土)で染める。
いぐさ独特の色やにおい、光沢を引き出すためだ。この泥染めがいぐさの表面をコーティングし、
いぐさが均一に乾燥するように働き、茎表面の葉緑素の酸化を防いで青く新鮮な状態
・・・つまり『青畳』と呼ばれる状態を長く保つのだ。
これが、まさにいぐさを知り尽くし、伝え残された伝統の技なのだ。

ところが、最近では着色剤を使って簡単に青みを出したり、
カビとかダニ対策のため防虫剤を塗布した外国産や石油繊維でつくる安価な
「化学畳」が市場の約7割を占めているという。
八代では畳表に使う糸にも、麻や綿など自然素材にこだわっているというのに、
この品質の違いはちょっとおかしい。
まったく別物が、同じ「畳」として市場に出回っているということだ。

畳は、茶道、華道、柔道など豊かな日本の精神・文化を育んできたものでもある。
八代のいぐさは、本来あるべき日本の姿へのこだわりを示してくれているから誇らしいと思う。
絆をとか、日本を一つにとか、思いや気持ちも大切だが、日本の伝統産業を
伝え残すことも、日本人の繊細な心を育てるためには大事だと私は思う。

2012.5.9