桜を纏う~秋月工房夢細工













「草木染の色物語~色選びで貴女の人生が変わる」

著者・染匠 小室容久 社会評論社刊


ピンクは、ピュアな命の輝きの色です。

桜のピンクに代表されるこの色は、良いものも悪いものも

拒否せず全部受け入れて相手があなたを守ってあげたいと思わせる色です。

誰の中にもある優しさや癒しの心を呼び起こし、多くの人を平和に、

平等に導くパワーをもつ色です。


江戸時代、上野の花見はたいへん賑わいました。落語に出てくる長屋の八つぁん、熊さんからお武

家さままで皆、上野の花見に出かけます。身分制度が厳しい江戸時代、本来であればお武家さま

と庶民が同じ場所で花見などできるわけがありません。

ところが、桜の下では身分制度の垣根もなく皆、平等だったのです。寛容の気持ちを持ってすべて

を受け入れる・・・実はお花見は無礼講だったのです。それが日本の花見文化であり、その世界観

こそが桜の色のパワーなのです。(本文より)


福岡県朝倉市秋月は県内屈しの桜の名所。
秋月野鳥川の上流に工房を構える「工房夢細工」の染匠・小室容久氏は、桜の枝を煮出して染料をつくり、桜が持つ独特の淡いピンクを布に染め出す桜染め職人だ。いつごろの、どういった枝がどういうピンクに染まるのか、その極意を会得するためには、桜とともに寝起きするくらい桜の状態を観察し、「いまだ!」という第六感を頼りに良質の染料をつくりだす。それが難しい。
「一応、ピンクっぽい色に染まることは染まっても、花咲く桜の淡いピンクとは違うものが染まるのが大半です。桜染めは、今年の桜と去年の桜とでは染まる色が違います。そのとき、そのときの命の色なのです」

小室氏が染めた桜染めのピンクをじっと眺めていると、遠い記憶の淵に沈んでいた幼い頃の母のぬくもりにふれたような、せつなくも幸福な夢に遭遇したような気がするのである。