屋久島の苔三昧


もののけの森






2018年4月27日 屋久島白谷雲水峡

 手荒い祝福?だった。低気圧の影響をモロに受け、離島へ飛ぶ飛行機は海から吹きつける暴風のため機体を激しく揺らしながら着陸態勢に入った。しかし、空港の滑走路が視界に入らないという理由で、再び上昇し島上空で旋回を始めた。出発時の「条件付きフライト」が脳裏をかすめる。もしやこのまま福岡に帰還するのでは・・・と思えるほど時間が経ったとき、パイロットの落ち着いた機内アナウンスの後、二度目のトライが始まった。だが、またしても機体は上下左右に揺さぶられ、不意に急降下し、風に翻弄され続けた。もう後はただ祈るばかりだ。耳元で唸りをあげるエンジン音のなんと頼もしいことよ。この緊迫した状況にも関わらず、談笑を続けるツワモノもいたが、着陸したときにはハイタッチをしていた。
 レンタカー会社のお兄さんの迎えの車に乗ると、日本人は私ら二人。若いお兄さん、日本語、英語、中国語で対応していてちょっとびっくり。中国人かもしれないが、日本人の若者よ、普通に英語くらいしゃべれないとこれから先、仕事がなくなるよ。




前日の悪夢を振り払うように翌日は快晴。今回は、屋久島観光のハイライトのひとつ、白谷雲水峡から太鼓岩までの往復トレッキングだ。森林浴だとか、太鼓岩から見る景色は素晴らしいとか、そういうことは端から念頭に置いていない。私が見たいのは、ただ一つ、屋久島の緑の元である苔、苔については生態など何の知識もないのだが、苔が反射する緑の光彩は何者にも代え難い。これほどの癒しは他にない。前日は雨だったため、「雨が降った翌日の苔はイキイキとしていますよ」と現地の方からの期待の言葉を背に受けて苔色の世界に思いは募る。


 白谷雲水峡の登山口に続く坂道をレンタカーで走っていると、「えっ、サル?」・・・そう、ヤクザルのファミリーと思しき5〜6頭の集団が行く手を横切った。それを不思議に思わせない空気は、屋久島の険しい山容をみれば納得できる。ここは限りなく原始林に近いのである。ヤクザル始め野生動物のお膝元なのだ。
 朝、8時前だがすでに駐車場には車が十数台止まっている。シーズンにはすぐに満杯になるらしいから早い時間帯に着くようなスケジュールが望ましいそうだ。
 管理協力金500円を払って、いざ、森の中へ。十数分行くと、もう目の前に苔色の世界が広がる。写真を撮りながら歩き、歩きながら写真を撮り・・・一面緑の世界だから、どこを撮っても緑しか映らない。後は寄るか、引くか、だ。それをやってると時間が止まり、足が止まり、進行が止まってしまう。往復5時間の予定だが、どうだろう。







 森は深くなるほど緑も多彩になる。単純に緑の光量が多いからだ。木にへばりつく苔、岩にしがみつく苔、朽ちた木に命の息吹を吹き込む苔、一瞬の光の変化とともに苔の色もパッと明るくなったり濃くなったり。昨夜の雨で苔がたっぷりと水分を抱え込み、そこに光が当たった瞬間の森のキラキラはとても幻想的だったが、残念ながらカメラに収める技術がなかった。











 足を引きずり太鼓岩まで登ってUターン。結局、戻ったら16時。それほどハードな工程ではなかったが、撮りながら、歩きながらでは時間配分が難しい。だが、期待を裏切られることはなかった。これまでは神社仏閣の境内などにはびこる苔をみて情緒などを刺激されていたわけだが、屋久島の苔を見てからは、それらに全く興味がなくなった。月並みだが自然はすごいし純粋に美しい。それ以上でもそれ以下でもない。