東北縦断ツアー〜奥入瀬〜十和田湖〜田沢湖〜角館〜平泉〜松島

奥入瀬渓谷

2018年 7月29〜31日

 羽田で乗り継いで青森空港へ。
 ただ、出発当日は、日本列島を東から西へと滅多にないコースで迷走してきた台風12号が迫っていた。だが、奇跡的な間隙を縫って福岡空港から羽田空港へ無事に飛行することができた。旅の始まりに、もう運を使ってしまったので、これから先の旅の無事を祈るばかりだ。

 一旦、羽田で乗り継いで青森空港へ。JTBが主催する東北縦断の旅がここから始まる。
 空港からバスで八甲田山系を越えて最初の観光地、奥入瀬渓谷、十和田湖へ。一年のうちに屋久島と奥入瀬と2カ所の「苔の聖地」を訪れたことはたいへん幸運だ。同じ緑の光を吸収しているとはいえ、また夏ということもあり奥入瀬の緑は深く、見るものを森の中に引きずり込むような力を感じる。日が射していないこともあって、撮った写真は皆アンダーだが、その緑こそ奥入瀬の色なのかもしれないと納得する。そんな風に思わせたのは、山深い東北地方を題材に、小説家であり民俗学者でもある作家・熊谷達也さんが著したちょっと不思議な山の話を思い起こしたからである。山里に語り継がれる不思議な現象、不思議な動物、いわゆる魔物や霊の話などを研究してきた民俗学者としての見地から語られる東北の神秘を、今、体感している気分になってしまったのである。

奥入瀬渓谷

 まるで南国のようにシダ類が森を覆っている。東北の森の景色とは想像し難い印象だが、湿気が多く、また、これが森の生命の証だろう。
 奥入瀬川は水量を人工的に調整しているからだろうか、おだやかで滑るように流れていく。河岸の緑の豊かさがこの周辺の森の豊かさを教えてくれる。曇りのせいもあって緑が少しばかり沈んではいたが、厳しい寒さを乗り越えて生まれる色だと思えば感慨深い。



奥入瀬渓谷

 屋久島もそうだったが、360度緑の世界だ。水辺は涼感あふれる空気が流れていて、体の中が浄化されていくようだ。短い時間だったが、川岸の散策路を歩いてみて誰もが奥入瀬に魅了される理由がわかった。秋の紅葉も素晴らしいと聞くが、極上の世界だろう。



深いエメラルドグリーンの水を湛える十和田湖
奥入瀬渓谷から十和田湖畔に出て湖の遊覧船を楽しむ。濃いエメラルドグリーンの水の色はこの世のものとは思えないほど美しい人を惑わす光彩を放っているようだ。身も心もどっぷりと癒しの光に包まれて一路、湖畔の宿へ。


早朝の十和田湖

 早朝、5時過ぎから湖畔の散策へ。水面が鏡のように静寂を保っている十和田湖の景色はめったにみられないそうだ。じっと見ていると空も島も水面に呑み込まれていく。
 2日目は、岩手県との県境、八幡平、田沢湖、秋田県の角館と巡り花巻温泉泊。八幡平を下ったドライブインでの昼食時、クマの目撃情報があったため散策は中止となった。「クマげな!」怖いもの見たさもあったが、強がりは事故の元だ。

標高1600mの八幡平。彼方に秋田県の男鹿半島が見える

 ここ八幡平は標高1600m。遠く秋田の男鹿半島まで見える日は大変めずらしいということだ。絶景は晴天の賜物。画角16mm、この大自然を写し込むカメラはあるか。

角館

 高原を下って田沢湖経由で秋田県の角館へ。武家屋敷が建ち並ぶ東北の小京都。ここの緑の美しさにも感激。桜と紅葉の季節は、いったいどれほどすごいことになるのだろう。綺麗な街に住む人の心も伝わってくる。

武家屋敷の庭


 3日目は、平泉、中尊寺に詣り、宮城県・松島へ。
 平泉は金色堂、中尊寺と藤原氏の栄華を訪ねる。綺麗に咲くハスの花は、泰衡の首桶に入っていた800年以上前のハスのタネを復活させたもの?らしい。ハスの花は浄土の花というから、そういう思いを込めて首桶に入れたのだろうか。ハスが咲く季節に来ることができ、こんな幸運はない。

平泉、中尊寺下の沼地に咲く藤原泰衡ゆかりのハス

中尊寺の鐘楼

 中尊寺の鐘撞堂。鎌倉時代末期の鐘楼が納められている。平泉は秋の紅葉の頃がおそらくみちのくの香りも増して旅情も豊かなんだろうなぁ。
 ツアーは観光地の滞在時間が限られているため、事前の情報収集は必至だ。これは何だ、あれは何だと、事前学習していくと実に密度の濃い旅行となる。そうでない人は大損していると思って間違いない。これから行く松島の瑞巌寺も予備知識がないとただの大きなお寺でしかない。瑞巌寺の見事な装飾は、伊達政宗が江戸から連れてきた職人達の手によるもので、彼らの技術は後に日光東照宮の装飾にも活かされたというから、東照宮のあの絢爛豪華な装飾は「伊達者」の仕業だったと思えば歴史のロマンだ。

 「仁にすぐれば弱くなる。義にすぐれば硬くなる。礼にすぐればへつらいとなる。智にすぐれば嘘をつく。信にすぐれば損をする」

 孔子、孟子の説いた教えから五常訓をあらわした伊達政宗、隙のない戦略家であり情け深く、また、豊かな感性を持った知将だったに違いない。
 松島といえば島巡り。右が何島、左が何々と聞きづらい音響と心地よい船の適度な揺れに、うかつにも居眠りをしてしまった。観光地に来て居眠りなんて信じられない!せっかく収集した情報が無駄になってしまったではないか。まったく「信にすぐれば損をする」だ。
 これで観光地巡りは終了。一路、仙台空港へ。夕食に牛タン食べくつろいでいたとき、震度4の地震が・・・。建物が大きく揺らいだが被害はなし。クマの出没情報以外トラブルもなく駆け足ではあったが、日本の素晴らしさを伝えのこす歴史と文化に触れることができた価値ある東北ツアーだった。