梅雨入り前の菊池渓谷


2019年6月1日 梅雨入り前の緑が美しい菊池渓谷

 整備された駐車場に入ると、係りの方が駐車料金200円を徴収。駐車スペースに誘導してもらえる。さらに渓谷の入口では協賛金として100円納める。トイレなどもきれいに整備されているため、その料金だと思えばいい。

 渓谷の入り口に掛かる橋を渡って一歩森に足を踏み入れると、湿気を帯びた空気が肌にへばりつき、じわっと汗ばむ。前日は雨だったせいだろうか、まだ朝の10時半頃だというのに、すでに梅雨入りしたような気配が淀んでいる。
 

その湿気の賜物にさっそく出会うとは思っていなかった。ホクホクとほどよく育った苔が、木や石に美しい緑の世界を描き出している。こういうことならマクロレンズを持ってくるんだった、と舌打ちする。初めての訪問なのでしかたがない。ツアィスの135㎜一本で撮るしかない。


渓谷沿いに整備された歩道は歩きやすく、軽装でも問題ない。ただ、これから夏にかけてのシーズンは、毒虫や蛇が出没しないとも限らないので長袖、長ズボンが良いのでは。
 見どころは、滝?なのだろうか。数種類の滝を間近に見ることができる。


苔と新緑の世界は、昨年の屋久島以来だ。屋久島同様、自然の緑のいやしを存分にカメラに収め、気がつけばあっという間に3時間が過ぎていた。ただ、私の撮った写真を見ても誰も菊池渓谷とは気づかないだろう。なにせ苔と葉っぱの写真ばかりだから。でも、ここにしかない緑、この時期にしか出会えない緑なのだ。屋久島のそれとも違う。どう違うのか、写真を見比べながら、その違いを嗅ぎ取る心豊かな時間・・・酒が美味いんです。
























糸島半島芥屋の立石山からの絶景


2019年1月12日 糸島半島 芥屋海水浴場を望む立石山へ

 昨年の今頃は確か雪だった。暖冬なのだろう、今年は暖かい。夏場になると賑わう芥屋海水浴場を眼下に望む立石山へ登った。登り口は、駐車場から芥屋海水浴場の砂浜を横切った先にある。山の標高200Mほどだから軽装備でOK、気軽に登れる。頂上からは、壱岐や対馬、遠く玄界灘に浮かぶ墨色の島影を望むことができる。運が良ければ、世界遺産の島「沖ノ島」が望めるらしい。
 標高は低いが、ただ登山道は急勾配が続き、足場の定まらない岩場をよじ登るイメージ。小学校低学年には少しハードルが高いかもしれない。30分ほどで頂上に着く。眼下にエメラルドグリーンの海を望み、湾曲した芥屋海水浴場の砂浜から伸びる対岸の半島の先っぽが景勝地「芥屋の大門(おおと)」だ。その向こう側にも砂浜が続き、そこは冬でもサーフィンに興じる人たちで賑わっている。
 糸島半島は変化に富んだ自然の宝庫であり、海山の幸に恵まれたエリアでもある。ここに移住する人も多いと聞くが、それも頷ける。ここは夕日もきれいだろうなぁ。

船越方面を望む
唐津湾を望む

天拝山の紅葉〜福岡県筑紫野市

天拝山登山口の公園。市民の憩いの場。

2018年11月24日 福岡県筑紫野市天拝山

 天気の良い日に登ると、福岡市内を一望できるお気に入りの場所だ。どこにでもある自然豊かな森、そして市民の憩いの場であるが、頂上から見える眼下の平野は、戦国時代、博多に攻め入ろうとする島津の大軍を四王寺山に岩屋城を構えた高橋紹運が迎え撃ち、壮絶な戦いが繰り広げられた合戦場でもある。島津軍はおよそ5万、一方の高橋軍はわずか763人だったとされ、全員玉砕。しかし、島津軍は大きな打撃を受け、また、秀吉の援軍も到着し退かざるを得なくなったため、博多の町は戦火を免れたということである。
 高橋紹運は、立花山に居を構える立花道雪とともに豊後・大友宗麟を支える二大看板の武将であった。その子、宗茂が立花家の養子に入り、後に柳川藩の初代藩主となるのである。そんな歴史の大舞台となった平地を天拝山から一望できる。蛇足になるが、紹運の子孫に当たるのが、かつての総理大臣・麻生太郎さんだとされている。

山頂から福岡市内方面、遠くに博多湾、右手に立花山を望む。 
正面の山は宝満山、その右手下の麓に太宰府天満宮。左の丘城の山が四王寺、高橋紹運の夢の跡だ。

 頂上に続く中腹に荒穂明神という神社がある。社殿の背後の巨大な岩を盤石として建てたのであろうといわれる。その境内の紅葉も素晴らしい。




 天拝山の登山口には、ふじの花で名高い武蔵寺がある。ここの境内の紅葉も見頃を迎えていた。





 四季折々に、その季節の色彩と情緒を奏でる一帯には、年中、市民の姿がある。登っていると、下って来た人が必ず挨拶してくれるのが嬉しい。人柄も自然も温かい。






大興善寺〜福岡県三養基郡基山町


2018年11月22日 福岡県三養基郡基山町

127段の石段を上り山門をくぐると、本堂を正面にした境内は紅葉の華化粧。まさに日本人が大好きな光景がそこに広がっている。大興善寺は、つつじ寺として有名だが、晩秋のひとときは格別の趣を拵える。





寅さんの小道〜福岡県朝倉市秋月


2018年11月6日 秋月 廣久葛本舗裏の通称「寅さんの小道」

映画『男はつらいよ』シリーズ第28作『男はつらいよ〜寅次郎紙風船』の舞台となったのが秋月だった。映画の封切りは昭和56年12月。マドンナに音無美紀子さん、ゲストに岸本加世子さん。映画は久留米の水天宮の秋祭りのシーンから始まる。音無美紀子さんは病気で伏せっているテキ屋仲間の女房役。寅次郎がその見舞いに行く家が、秋月にある。当時の様子がうかがえる街中のシーンが懐かしい。見舞いを終えた寅次郎が音無さんと連れ立って歩くのが、野鳥川沿いの小道だ。「あんたもがんばんなよ」と言って別れた寅さんを呼び止めて「うちの旦那・・・俺が死んだら寅さんを頼れ・・・って」と言ってこの小道を去る後ろ姿がとても印象に残る名シーンだ。

写真の白い壁は、廣久葛本舗の敷地を囲う壁で、今は映画撮影当時とは少し変わったが「映画は昔の小道を撮っているので懐かしい」と9代目当主の髙木久助さんは語る。
撮影は昭和56年の初夏に行われ、渥美清さんらは廣久葛本舗の店内で休息されたという。


店舗は築260年を超える秋月古商家。広い土間続きの奥は葛の製造場に続いている。本葛ならではの葛餅や葛きり、寒い季節に欠かせない葛湯など、昔ながらの味を楽しめる希少な店舗だ。寅さんはここで何を召し上がったのか・・・すでに記憶に乏しいとのことでした。


秋月といえば県内有数の紅葉の名所。杉ノ馬場の黒門あたりは、11月下旬が見頃。晩秋の古都秋月を楽しむには一番いい季節の到来です。


東北縦断ツアー〜奥入瀬〜十和田湖〜田沢湖〜角館〜平泉〜松島

奥入瀬渓谷

2018年 7月29〜31日

 羽田で乗り継いで青森空港へ。
 ただ、出発当日は、日本列島を東から西へと滅多にないコースで迷走してきた台風12号が迫っていた。だが、奇跡的な間隙を縫って福岡空港から羽田空港へ無事に飛行することができた。旅の始まりに、もう運を使ってしまったので、これから先の旅の無事を祈るばかりだ。

 一旦、羽田で乗り継いで青森空港へ。JTBが主催する東北縦断の旅がここから始まる。
 空港からバスで八甲田山系を越えて最初の観光地、奥入瀬渓谷、十和田湖へ。一年のうちに屋久島と奥入瀬と2カ所の「苔の聖地」を訪れたことはたいへん幸運だ。同じ緑の光を吸収しているとはいえ、また夏ということもあり奥入瀬の緑は深く、見るものを森の中に引きずり込むような力を感じる。日が射していないこともあって、撮った写真は皆アンダーだが、その緑こそ奥入瀬の色なのかもしれないと納得する。そんな風に思わせたのは、山深い東北地方を題材に、小説家であり民俗学者でもある作家・熊谷達也さんが著したちょっと不思議な山の話を思い起こしたからである。山里に語り継がれる不思議な現象、不思議な動物、いわゆる魔物や霊の話などを研究してきた民俗学者としての見地から語られる東北の神秘を、今、体感している気分になってしまったのである。

奥入瀬渓谷

 まるで南国のようにシダ類が森を覆っている。東北の森の景色とは想像し難い印象だが、湿気が多く、また、これが森の生命の証だろう。
 奥入瀬川は水量を人工的に調整しているからだろうか、おだやかで滑るように流れていく。河岸の緑の豊かさがこの周辺の森の豊かさを教えてくれる。曇りのせいもあって緑が少しばかり沈んではいたが、厳しい寒さを乗り越えて生まれる色だと思えば感慨深い。



奥入瀬渓谷

 屋久島もそうだったが、360度緑の世界だ。水辺は涼感あふれる空気が流れていて、体の中が浄化されていくようだ。短い時間だったが、川岸の散策路を歩いてみて誰もが奥入瀬に魅了される理由がわかった。秋の紅葉も素晴らしいと聞くが、極上の世界だろう。



深いエメラルドグリーンの水を湛える十和田湖
奥入瀬渓谷から十和田湖畔に出て湖の遊覧船を楽しむ。濃いエメラルドグリーンの水の色はこの世のものとは思えないほど美しい人を惑わす光彩を放っているようだ。身も心もどっぷりと癒しの光に包まれて一路、湖畔の宿へ。


早朝の十和田湖

 早朝、5時過ぎから湖畔の散策へ。水面が鏡のように静寂を保っている十和田湖の景色はめったにみられないそうだ。じっと見ていると空も島も水面に呑み込まれていく。
 2日目は、岩手県との県境、八幡平、田沢湖、秋田県の角館と巡り花巻温泉泊。八幡平を下ったドライブインでの昼食時、クマの目撃情報があったため散策は中止となった。「クマげな!」怖いもの見たさもあったが、強がりは事故の元だ。

標高1600mの八幡平。彼方に秋田県の男鹿半島が見える

 ここ八幡平は標高1600m。遠く秋田の男鹿半島まで見える日は大変めずらしいということだ。絶景は晴天の賜物。画角16mm、この大自然を写し込むカメラはあるか。

角館

 高原を下って田沢湖経由で秋田県の角館へ。武家屋敷が建ち並ぶ東北の小京都。ここの緑の美しさにも感激。桜と紅葉の季節は、いったいどれほどすごいことになるのだろう。綺麗な街に住む人の心も伝わってくる。

武家屋敷の庭


 3日目は、平泉、中尊寺に詣り、宮城県・松島へ。
 平泉は金色堂、中尊寺と藤原氏の栄華を訪ねる。綺麗に咲くハスの花は、泰衡の首桶に入っていた800年以上前のハスのタネを復活させたもの?らしい。ハスの花は浄土の花というから、そういう思いを込めて首桶に入れたのだろうか。ハスが咲く季節に来ることができ、こんな幸運はない。

平泉、中尊寺下の沼地に咲く藤原泰衡ゆかりのハス

中尊寺の鐘楼

 中尊寺の鐘撞堂。鎌倉時代末期の鐘楼が納められている。平泉は秋の紅葉の頃がおそらくみちのくの香りも増して旅情も豊かなんだろうなぁ。
 ツアーは観光地の滞在時間が限られているため、事前の情報収集は必至だ。これは何だ、あれは何だと、事前学習していくと実に密度の濃い旅行となる。そうでない人は大損していると思って間違いない。これから行く松島の瑞巌寺も予備知識がないとただの大きなお寺でしかない。瑞巌寺の見事な装飾は、伊達政宗が江戸から連れてきた職人達の手によるもので、彼らの技術は後に日光東照宮の装飾にも活かされたというから、東照宮のあの絢爛豪華な装飾は「伊達者」の仕業だったと思えば歴史のロマンだ。

 「仁にすぐれば弱くなる。義にすぐれば硬くなる。礼にすぐればへつらいとなる。智にすぐれば嘘をつく。信にすぐれば損をする」

 孔子、孟子の説いた教えから五常訓をあらわした伊達政宗、隙のない戦略家であり情け深く、また、豊かな感性を持った知将だったに違いない。
 松島といえば島巡り。右が何島、左が何々と聞きづらい音響と心地よい船の適度な揺れに、うかつにも居眠りをしてしまった。観光地に来て居眠りなんて信じられない!せっかく収集した情報が無駄になってしまったではないか。まったく「信にすぐれば損をする」だ。
 これで観光地巡りは終了。一路、仙台空港へ。夕食に牛タン食べくつろいでいたとき、震度4の地震が・・・。建物が大きく揺らいだが被害はなし。クマの出没情報以外トラブルもなく駆け足ではあったが、日本の素晴らしさを伝えのこす歴史と文化に触れることができた価値ある東北ツアーだった。



屋久島の苔三昧


もののけの森






2018年4月27日 屋久島白谷雲水峡

 手荒い祝福?だった。低気圧の影響をモロに受け、離島へ飛ぶ飛行機は海から吹きつける暴風のため機体を激しく揺らしながら着陸態勢に入った。しかし、空港の滑走路が視界に入らないという理由で、再び上昇し島上空で旋回を始めた。出発時の「条件付きフライト」が脳裏をかすめる。もしやこのまま福岡に帰還するのでは・・・と思えるほど時間が経ったとき、パイロットの落ち着いた機内アナウンスの後、二度目のトライが始まった。だが、またしても機体は上下左右に揺さぶられ、不意に急降下し、風に翻弄され続けた。もう後はただ祈るばかりだ。耳元で唸りをあげるエンジン音のなんと頼もしいことよ。この緊迫した状況にも関わらず、談笑を続けるツワモノもいたが、着陸したときにはハイタッチをしていた。
 レンタカー会社のお兄さんの迎えの車に乗ると、日本人は私ら二人。若いお兄さん、日本語、英語、中国語で対応していてちょっとびっくり。中国人かもしれないが、日本人の若者よ、普通に英語くらいしゃべれないとこれから先、仕事がなくなるよ。




前日の悪夢を振り払うように翌日は快晴。今回は、屋久島観光のハイライトのひとつ、白谷雲水峡から太鼓岩までの往復トレッキングだ。森林浴だとか、太鼓岩から見る景色は素晴らしいとか、そういうことは端から念頭に置いていない。私が見たいのは、ただ一つ、屋久島の緑の元である苔、苔については生態など何の知識もないのだが、苔が反射する緑の光彩は何者にも代え難い。これほどの癒しは他にない。前日は雨だったため、「雨が降った翌日の苔はイキイキとしていますよ」と現地の方からの期待の言葉を背に受けて苔色の世界に思いは募る。


 白谷雲水峡の登山口に続く坂道をレンタカーで走っていると、「えっ、サル?」・・・そう、ヤクザルのファミリーと思しき5〜6頭の集団が行く手を横切った。それを不思議に思わせない空気は、屋久島の険しい山容をみれば納得できる。ここは限りなく原始林に近いのである。ヤクザル始め野生動物のお膝元なのだ。
 朝、8時前だがすでに駐車場には車が十数台止まっている。シーズンにはすぐに満杯になるらしいから早い時間帯に着くようなスケジュールが望ましいそうだ。
 管理協力金500円を払って、いざ、森の中へ。十数分行くと、もう目の前に苔色の世界が広がる。写真を撮りながら歩き、歩きながら写真を撮り・・・一面緑の世界だから、どこを撮っても緑しか映らない。後は寄るか、引くか、だ。それをやってると時間が止まり、足が止まり、進行が止まってしまう。往復5時間の予定だが、どうだろう。







 森は深くなるほど緑も多彩になる。単純に緑の光量が多いからだ。木にへばりつく苔、岩にしがみつく苔、朽ちた木に命の息吹を吹き込む苔、一瞬の光の変化とともに苔の色もパッと明るくなったり濃くなったり。昨夜の雨で苔がたっぷりと水分を抱え込み、そこに光が当たった瞬間の森のキラキラはとても幻想的だったが、残念ながらカメラに収める技術がなかった。











 足を引きずり太鼓岩まで登ってUターン。結局、戻ったら16時。それほどハードな工程ではなかったが、撮りながら、歩きながらでは時間配分が難しい。だが、期待を裏切られることはなかった。これまでは神社仏閣の境内などにはびこる苔をみて情緒などを刺激されていたわけだが、屋久島の苔を見てからは、それらに全く興味がなくなった。月並みだが自然はすごいし純粋に美しい。それ以上でもそれ以下でもない。